「主役は社員」が合言葉―KLGがOne teamで進める組織づくり

株式会社クボタロジスティクス(以下、KLG)では、2024年1月に「次世代プロジェクト」が発足しました。
若手・中堅を中心に、部門横断的に集まったメンバーが、「従業員エンゲージメント向上チーム」と「次世代人財育成チーム」の2チームに分かれて、課題抽出、施策の検討および実行を行っています。
エンゲージメント向上の取り組みは、目に見える成果がすぐに現れるものではないからこそ、経営層をはじめとする関係者のコミットメントに加えて、関わるメンバーが前向きかつ主体的に取り組めるような働きかけがポイントとなります。
今回は、そのようなポイントにスポットを当てて、「次世代プロジェクト」が工夫している点や苦労している点について、プロジェクトの立ち上げ人であり主査でもある総務部長の次世代プロジェクト 主査、各チームのリーダーである次世代人財育成チーム リーダー、従業員エンゲージメント向上チーム リーダーに、お話を伺いました。
INDEX
1.プロジェクト立ち上げの背景―変革期に差し掛かったKLGと総務部長の想い
クボタロジスティクスでは、『物流からの脱却➡ロジスティクスへの進化』を目指して、2022年に社名変更(旧:KBSクボタ)を行い、『コストから付加価値へ』をキーワードに据え、事業活動において大きな付加価値を生み出すための改革を進めていると伺いました。また、経営方針において「人的資本の拡充」を掲げ、人材面での課題解決に取り組んでいるとも伺いました。そのような中、2023年3月にKLG総務部長に就任した次世代プロジェクト 主査が、次世代プロジェクトを立ち上げるに至った背景について教えてください。
次世代プロジェクト 主査:
製品は、お客様のもとに運ばれて、使っていただいて初めて価値が生まれます。KLGは、その価値を流し込む”最終ランナー”、言い換えると「クボタグループにとってなくてはならない存在・リードする存在」をありたい姿として掲げています。これは、経営層や部門長のみならず、社員全員が力を合わせて実現していくものだと考えています。
一方で、前年に実施されたエンゲージメントサーベイ(以下ES)の結果や社員へのヒアリングを通じて、「自発的な貢献欲求」「自社に対する愛着・誇り」「仕事のやりがい・働きがい」を社員が十分に持てていない現状を知りました。「KLGのありたい姿の実現に向けたエンゲージメント向上、そして会社の将来・未来を支える次世代人財の育成こそが、総務部長としての自身の最大のミッションだ」と強く感じました。
どのように進めていこうか悩んでいるさなかに聴講した「エンゲージメント関連セミナー」で、「組織の慢性疾患には特効薬がなく、地道なセルフケアを積み重ねるしかない」というお話がありました。
当社の「エンゲージメント向上」と「次世代人財の育成」という課題についても、今すぐに事業の存続に関わるような問題に発展することはないかもしれません。しかし「そのまま放置すれば状況は徐々に悪化し、気付いたときには重篤化している」という点において、まさに組織の慢性疾患であると考えました。
この考え方に共感したこともあって、エンゲージメントという課題解決に向けては、トップダウンだけではなく、社員も参画し、メンバー一人ひとりが主体的に考え、行動することが重要だと思い、プロジェクトという形で取り組みをスタートすることにしました。
組織の急性疾患 | 組織の慢性疾患 | |
---|---|---|
進行スピード | 急速に悪化する | ゆっくりと悪化する |
原因 | 明確 | あいまいで特定できない |
実行者 | 経営者、もしくは、経営陣 | 組織メンバー全体 |
改革の期間 | 一定期間 | 日常的に |
頻度 | 一回で完結する | 根治しない 繰り返し問題が発生するが、セルフケアを通じて寛解を目指す |
典型的な例 | 企業再生、戦略転換、敵対的買収空の防衛など | 長らくトップライン/簿っと無ラインが低下し続けている 新規事業開発を勧めようとしても事業部が協力してくれない 負け癖がつている 自分で問題解決を考えようとしないetc. |
※「エンゲージメント関連セミナー(2023/4/13_宇田川 元一氏)」の資料より抜粋。組織の課題を疾患にたとえる中で、エンゲージメント向上を慢性疾患として位置づけ、日ごろからのセルフケアの重要性について述べられた。
2.プロジェクトキックオフまで―取り組みを前向きに捉えてもらうために
プロジェクト発足に向けた社内での合意形成や、メンバー選定はどのように進められたのでしょうか?
次世代プロジェクト 主査:
社長を含む経営層については、元々人材面での課題意識を強く持っていたため、エンゲージメント向上に全社的に取り組むことに対しても前向きに受け止めてもらえました。
一方、部門長や拠点長については、そもそも「エンゲージメントとは何か・何のために取り組むのか」ということへの理解度にもバラつきがありました。そのため、前年度のES結果フィードバックを兼ねた説明の場を作り、課題意識の共有化を進めることで、全拠点を巻き込むこととなるプロジェクトをスムーズに進めていくための土台を固めました。
プロジェクトメンバーは次世代を担う若手中堅人材を中心に、またKLGが縦割り組織であるという問題意識があったため部門横断的に集め、チームリーダーは拠点経験者の中から選出しました。プロジェクトキックオフの時点で、会社の次世代を築くプロジェクトに参画することに対して、皆さんが想像以上にポジティブに捉えていたという印象です。
※次世代プロジェクトは、様々な事業・職種から部門横断的に集まった16名から構成される。
※所属・役職等は、PT発足(2024年1月)時点。
キックオフ当初からメンバーの皆さんが前向きだったのですね。チームリーダーを務めておられるお二人は、プロジェクトへアサインされたとき、どのような感想を持ちましたか?不安などはありましたか?
次世代人財育成チーム リーダー:
プロジェクトの立ち上げの背景や想い、取り組みの方向性については、かなり具体的な説明を受けたので、趣旨をしっかりと理解することができました。
ただ、人材育成チームのリーダーという立場でアサインされていることを聞いた際、率直に言うと最初は「人材育成の経験が浅い自分に、本当に務まるのだろうか?」と不安もありました。そのような中で、次世代プロジェクト 主査と上長が、「チームリーダーとしての経験を、KLGの人材育成の方向性を考えていくことに生かしていけばよい」と背中を押してくださり、気が楽になりました。
従業員エンゲージメント向上チーム リーダー:
社員の声にしっかりと向き合って「会社を変えることに挑戦してみたい」と、ポジティブな気持ちがわいてきました。
一方で、具体的な取り組み内容がパッと浮かばなかったというのも、正直なところです。
エンゲージメントは、人によって理解度や受け止め方の違いが異なる部分が大きく、「これをやれば必ず上手くいく」という定石があるわけではありません。
また、一般的にこういったプロジェクトは、経営層からの指示に従うことに注力しすぎるあまり、失敗を恐れ、本来の目的を見失い、「経営層に報告するための取り組み」になってしまう、といった事態に陥りやすいかと思います。
次世代プロジェクトでは、「社員が主役」というメッセージが強調されていました。
「経営層への報告ありきではない。とりあえず、なんでもやってみましょう」という言葉も頂けたことで、「それならば、どんどんチャレンジしてみよう」という気持ちが強くなりました。
3.プロジェクト推進真っ最中の本音あれこれ
プロジェクトの趣旨や背景に関する説明だけでなく、皆さんがプロジェクトに参加する意義や、どんなスタンスで取り組んでほしいかという期待も含めたお話があったのですね。メンバーの皆さんがより前向きに取り組めるよう、心掛けておられることはありますか?
次世代プロジェクト 主査:
メンバーの主体性を引き出すような関わり方をすることです。
私が考えるプロジェクトのありたい姿や方向性をあまりに前面に出しすぎると、メンバーもその方向へ進むしかなくなります。従業員エンゲージメント向上チーム リーダーが話していたとおり、このプロジェクトの主役は社員であり、メンバー。
私は基本的には一歩下がった位置からプロジェクトを見守り、頼られればそれに対してコミットする、というスタンスを心掛けています。
例えば、私はあえて日々のミーティングにも参加しないようにしています。ただし、プロジェクトの進捗は主査として把握しておく必要があるので、オンライン会議の様子を録画しておいてもらって後から確認し、もし軌道修正が必要そうな状況であれば、チームリーダーに声をかけて、話を聞いたりしています。
次世代人財育成チーム リーダー:
チームリーダーとしては、メンバーが自身の意見やアイディアを言いやすいようにざっくばらんな雰囲気づくりを意識しています。
元々、1投げたら3も4も返ってくるような活発なチームではあるので、そういった雰囲気を大切にしたくて、もし軌道修正が必要な場合であっても極力メンバーの発言の意図を汲み取った上で、一緒にアイディアをブラッシュアップするようにしています。
従業員エンゲージメント向上チーム リーダー:
私のチームでは、ミーティングの進行役をリーダーである私ではなく、メンバーの皆さんに交代で担当してもらうようにしています。
また、「これをすればエンゲージメントが上がる」というような正解がなく、メンバーも不安な中で進めている部分もあるので、ちょっとしたことであってもお互いに声を掛け合ったり褒め合ったりすることで、活動に対するモチベーションをみんなで高め合うようにしています。
次世代プロジェクト 主査:
各拠点から詰まったメンバーが、チームリーダーのお二人をはじめとして本当に前向きな雰囲気で進めてくれています。
元々KLGは、全国に30以上の拠点が存在し、また取り扱い製品毎に分かれる部門も複数存在しており、拠点・部門毎の縦割りの組織風土があります。
そのような中、このプロジェクト自体がまさにKLGの横糸的な存在になってくれていると感じています。
今後具体的なアクションを推進していくことになると思いますが、現時点で課題に感じていること、取り組んでいきたいことはありますか?
従業員エンゲージメント向上チーム リーダー:
活動の仕組み化です。
例えば、社員の意見を吸い上げて、会社に提案するという仕組み。プロジェクトの前半で、取り組むべき課題を抽出するために社員が抱えている困りごとについてヒアリングする機会があったのですが、最初はどうしても個別具体的な問題にばかり目がいきがちでした。しかし、今後KLGがより良い会社になっていくためにという観点で見ると、今本当に大切なのは、一つひとつの問題そのものの解決というよりも、このプロジェクトが終わってからも「社員の意見を収集し、会社に提案する」という流れが仕組みとして継続的に回っていくことなのではないかと考えるようになりました。
プロジェクトの活動が一過性のものにならないよう、いかに仕組みに落とし込んでいくか、ということを課題として取り組んでいきたいと思います。
次世代人財育成チーム リーダー:
私も従業員エンゲージメント向上チーム リーダーと同じ課題を持っています。
私のチームの取り組みは、いずれは主管部門である人事部門に引き継ぐことになります。
例えばプロジェクトの発案で新規に実施予定の「ありたい姿実現研修」一つとっても「1回実施して終わり」ではなく、KLG内の継続的な取り組みとして続けていけるよう、プロジェクト内で議論を重ね、しっかりと土台を作った状態で主管部門へバトンパスしたいと思います。
4.最後に
これから各社・各部門内で取り組みをスタートしたいと考えている方や、不安を抱えながらも取り組みを推進している方へ向けて、メッセージをお願いします。
従業員エンゲージメント向上チーム リーダー:
エンゲージメント向上は、一筋縄ではいきません。
ですが、もしも自分たちの力で何か一つでも変えることができたならば、必ずあとから「やってよかった」と思えるようになるはずです。またこういった取り組みに参画することで、会社や自分の10年後をイメージすることができるようになり、成長や働きがい向上にも繋がっていると実感しています。是非、前向きに頑張ってください。
次世代人財育成チーム リーダー:
いくら「失敗を恐れずトライ&エラーで挑戦してほしい」と言ってもらえたとしても、やっぱりエラーは怖いし、どうしても不安になることはあります。
ですが、その気持ちを乗り越えさえすれば、きっとどんなことでも挑戦できます。メンバーが「トライしてみて、失敗したときはまた修正すればよい」という心持ちで取り組めるよう、経営層や上司の皆さんには、背中を押していただきたいと思います。
次世代プロジェクト 主査:
エンゲージメント向上のための取り組みを上手く進めるキーとなるのは、推進するメンバーをはじめとする社員の主体性だと思います。トップダウンのみで決まることと、社員自ら声を上げて、議論を交わし、提案することでは、質が大きく異なります。
「自分たちの会社は、自分たちで良くするんだ」という意識を社員が持つこと、また経営層の方には、そういった意識を持てるようなメッセージ発信や環境づくりを意図的に行っていただきたいと思います。